特別小説ドラマ『北電師たち』season1

北電師とは、他人のカチカチくんの所有者になりすまして売却を持ちかけ、偽造書類を使って多額の金をだまし取る、動産詐欺を行う集団のことである。

東京都内・某所

とある飲食店で注文した麺をすすりながら、サングラスの男が静かに口を開く。

「今日はわざわざ、我々の指定した店舗までご足労いただき、感謝します。鴨田さん」

男の名は、ハリソンなかじま。もちろん偽名である。
そして彼の発言をきっかけに、同席する面々も続々と声を発した。

「ま、ご用意した書類に書いてあるとおりですわ! カチカチくんってご存知でっしゃろ? 今では生産が中止された例の小役カウンタ。アレのデッドストックがぎょうさん見つかったんですわ。今や投機商材としても注目されとるカチカチくんを、今回特別に、鴨田さんに提供したいという持ち主さんが現れましてね。そんでこうして足を運んでもろたんですわ」

ハリソンの左に座るふてぶてしい白髪の男は、胡散臭い関西弁で“鴨田”に畳み掛ける。

男の名はマルサン。やはり偽名である。元マルサの職員であるが、現在はハリソンの下で詐欺行為に手を染めて久しい……。
さらに鴨田の隣に陣取る長髪の男・松本ミゾレも言葉を紡ぐ。

「鴨田さま。私共は本来のカチカチくんの持ち主である権利者の田島さまより、全幅の信頼を頂戴いただいております。本日は都合により来席はできないとのことでしたが、御本人からも、鴨田さまへの無礼がないように万事つつがなく契約を終了するように申しつかっております」

そう言いながら鴨田に書類を手渡す松本。
が、書類に目を落とした鴨田は不満を吐露する。

「ペカり権利譲渡契約書? これは一体どういう……」

遮るようにマルサンが割り込む。

「まあ、形式的な書類ですわ! 内容に関しては、まあ田島さまが格安の内容でとおっしゃるんで、どうとでも後から修正できます! それより、カチカチくんほしいんやったら、はよぉ動いた方がいいかもわかりませんよ? 正直な話、他にも2、3名が名乗り上げてますさかい」

鴨田が疑惑の目を3人の詐欺師に向ける。
それを察した松本がさらに切り出した。

「なにぶん、大きな契約となりますから、警戒されるのも無理はありません。ただ、マルサンが言うように他にも希望者は数名出ております。現物のカチカチくんと権利者の田島さまは本日は不在ではありますが、ご契約自体は本日でも可能となります……こちらのカチカチくん権利譲渡契約書。特別遊技賃借契約書。遊技コンサルティング契約書と、先程ご確認いただきました契約書面、計4つにご署名をいただけますでしょうか?」

間髪入れず、今度はマルサンがしびれを切らしたように大声を上げる。

「もうええでしょう! そんなこまごまとした心配事、後でどうとでも帳尻合わせられますやろ!」

恫喝と共にテーブルを叩いて見せるマルサン。
彼のあまりの権幕に、背景まで変わってしまっている。
その勢いに押されてか、とうとう鴨田も決心を固めた。

「……わかりました。しかし、私も決して安くない金額を失うこととなります。カチカチくんの譲渡契約は今日締結することには同意しますが、引き渡しの際には必ず、田島さんに会わせてくれますか?」

その言葉を引き出した3人は、にやりと笑って頷いた。
契約書にサインと押印をする鴨田を、ハリソンなかじまはサングラス越しに、実にひややかに見据えていた。

「では、契約成立ですね。皆さん、この店のポップコーンは格別の味わいですよ。ぜひ召し上がってください」
そう言ってトリュフフレーバーのポップコーンを勧めるハリソンなかじま。
勧められるままに口に運ぶマルサン、松本、そして鴨田……。

埼玉県某所 北電師たちのアジト

「皆さん。今回もおつかれさまでした。いつものように、報酬は一度資金洗浄役のレモンくんに預けて海外でロンダリングしてから、振込みます」
獲物をうまく毒牙に掛けたハリソンなかじまが、レモンサワーを口に含む。

「しっかし、あのカモもとんだアホやで! カチカチくんの持ち主の田島なんかとっくに死んでることにも気づかずになぁ!」
マルサンの言うように、実のところ鴨田が権利を譲渡されたと思い込んでいるカチカチくんの本来の持ち主は既にこの世にいない。
現在はその戸籍をそっくりそのまま流用した、全く赤の他人の田島とすり替わっているに過ぎない。

北電師たちは独自のネットワークを形成しており、このように詐欺のために権威のある人物に成り代わっているキャストを、実に多く手配することができるのである。

「騙されるほうが悪いんですよ。しょせん存在しないカチカチくんに踊らされているだけの人には、過ぎた荷物。それが金です」

レモンサワーを飲み干したハリソンなかじまが、そう吐き捨てた。

「ところで……皆さん。次はどんな山に登ろうと考えていますか?」

ハリソンなかじまの問いかけに、マルサン、松本ミゾレが手を止めて各々思案する。

「今回の山。実に簡単で、面白みのない案件でした。こういう仕事はもうやりたくありません。もっと、大きな山に、登ってみませんか? そうすることで私達は、もっと大きな。オスイチよりも時短引き戻しよりも強烈な、エクスタシーを感じることができる……私の知る限り、このメンバーは今まででも最高の人材です。皆さんとなら、それができる気がします」

ハリソンなかじまのその提案に、松本ミゾレが食ってかかる。

「ハリソン。本当にもっとでかい山があるなら協力はするが、それよりも次からはもっと金、よこせよ」

詰め寄る松本ミゾレを一瞥もすることなく、ハリソンなかじまが応じる。

「報酬は最初に決めた配分で納得いただけたはずですが」

しかし松本ミゾレは納得しない。

「うるせえ! 準備金が足りてねえんだよ、ごちゃごちゃ言ってねえでもっとよこせ! 次は12億だ! 12億くれないなら俺はもう降りる!」

無茶な要求を突きつけた松本ミゾレは、さらに手持ちのブランドバッグをハリソンなかじまに見せつける。

「これ、ルイ・ヴィトン」

「ルイ・ヴィトン!!!!!」

……一触即発の空気が部屋を支配する。が、次に沈黙を破ったのは、意外にもなかじまからの肯定的な言葉だった。

「わかりました。ではその条件を飲みましょう。準備金も早々に手配します。頼みましたよ、松本さん」

「へへ。わかればいいんだよ」

安堵した表情でアジトを出ていく松本ミゾレ。
その背中を目で追うマルサンが、心配そうな顔でつぶやいた。

「あいつ、あんなに金が要るとか何に使うとるんや? だいぶ覚醒剤のやり過ぎやとは思っとったけど、ありゃそろそろやばいで」

しかしハリソンなかじまは彼の言う心配事など気にするまでもないと考えているのか、マルサンの声を制するように淡々と次の仕事の指示を下すのだった。

「ニンベン師のレモンくんにも、次は仕事を振りましょう。それと、やーまるさんにもキャスティングの手配は既にお願いしてあります。今度の狙いは……」

そう言うとハリソンは、マルサンに1枚の写真を手渡した。
マルサンの顔色が変わる。

「こ、これは流石に無理やろ! 誰も騙されへんで、こんなん!」

「いいえ、大丈夫です。私たちのチームならばそれができます」

不穏な笑みをたたえ、ハリソンは一気にレモンサワーを飲み干した……。
やがてマルサンがアジトを去るのを横目に、スマホを取り出すハリソンなかじま。

「もしもし。例の件。ちょっと早めにお願いするかもしれません。ええ、よろしく頼みます」

電話の相手は、ハリソンのこの言葉を受けて小さく「リョウカイシマシタ ボス」と返答をした。
ハリソンをボスと呼ぶこの男こそ、ハリソンの命令で様々な汚れ仕事を手掛ける闇の掃除屋、ゆばという外国人である。

富山県・某パチンコホール

「マッタク、ボスハ人使イガ荒イ ジャグ連中ハ連絡シナイデ欲シイヨ 流レ、変ワルカラ…」

しかし、そうつぶやくゆばの打つ台の下皿には、メダルはなかった……。

東京・新宿

「はい、チーズ!」

この日も、ハリソンに呼び出されたマルサンと松本ミゾレは、あいさつ代わりに競馬で運試し。
全員が小銭を失ったところで話題は新しいビジネスに切り替わった。

「松本さん。レモンくんにお願いしていた書類はお持ちいただけましたか?」

「もちろんよ、ハリソン。ただまだ“透かし”のチェックができてねえ。偽造は完璧なはずだが、ちょうど近くに機材もあるし、これから確認しよう」

そう返答すると、手元のルイ・ヴィトンから数枚の偽造書類を取り出す松本ミゾレ。
その書類を横から奪い取り、内容を確認するマルサン。

「ほう、なかなかええ出来やないか。レモンくんも本格的に、詐欺の仲間入りしたわけやし、今度からアジトに呼んで一緒に悪だくみするのもええんちがう?」

マルサンの手元に渡った書類を、今度はハリソンが引き抜き、文言のチェックを行いながら、メンバーからレモンと呼ばれている人物についての私見を述べていく。

「レモンくんは、実に良いセンスを持っています。しかし私のチームは少数精鋭。彼にまで現場に出てもらうことはないでしょう。実働部隊は、あなたたち2人で十分ですよ」

そうして、偽造書類の最終チェックのために、“透かし”を確認できる機材が待つ建物に入る3人の詐欺師。
そこはあろうことか、ありふれたパチンコホールであった。

「ここでいいでしょう」

そう言ってハリソンなかじまは、適当に見繕ったジャグラーに腰を下ろす。
すると、なんとたった1回の遊技で早々にボーナスを確定させ、GOGOランプを点灯させるのであった。

「では……」

「……透かしも完璧ですね。いい仕事です。レモンくんには後で、私からもお礼の連絡をしておきましょう」

GOGOランプに透かしても、偽造印に乱れがないことを確認したハリソン。
完璧なまでに本物そっくりな偽造書類が、こうしてまた次の詐欺に使われることが確定した。

「ハリソン、それじゃあその書類は一旦俺が預かるから、あんたはさっさとボナ揃えて消化してくれ。後で例の焼き肉屋で落ち合おう」

そそくさと書類をルイ・ヴィトンにしまい、足早にホールを去る松本ミゾレ。
続いてマルサンも別の出口から店を出ようとする。

「ほな、俺もこの後ちょっと用事があるから。夜の焼肉まで、景気づけにお姉ちゃんいてこましたろう、思てな! 幸いすぐそこに歌舞伎町もあるしな!」

「ええ、存分に楽しんでください。それではまた、後で」

2人の背中を見送った後、ボーナス図柄を揃えるハリソンなかじま。
しかし、レギュラーボーナスが成立してしまった瞬間、その眉を顰める……。

「バーですか。これでは少々役不足ですね。やはり、ゆばさんの出番はもう少し早める方がいいのかもしれません」

レギュラー分の出玉を飲ませてホールを出るハリソン。
そのハリソンの背後を、1人の男の影が密かに追跡していた……。

 

season1終結 衝撃の展開ひしめく次回を待て!! 

1 個のコメント

  • オモコロみたいなことがやりたいんだなと思われますが
    むしろ本家オモコロって緩そうに見えてちゃんとやるべきことをやっていて面白いと再確認させてくれてありがとうございました。

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