やーまるの“知らぬわほっとけ” #8 「声」

声がデカい奴はバカが多いという話。

僕は基本的に昼食を妻にお弁当を作ってもらい仕事に出るのだが、ほぼ毎日違う場所で働く日雇い労働者のような環境の為、お気に入りの飲食店が近くにあると予めわかっている時に限ってお弁当を無しにしてもらい、お昼にそのお店に行くのを1日の楽しみにしている。

それはラーメン屋であったりラーメン屋であったりするのだが、特にここ数年通い続けているとある定食屋に行ける日は前日からメニューを考えてワクワクしながら仕事に励む。

通いつづけている中で、店主の奥さんには顔を覚えられ、話しかけられるくらいのちょっとした常連にまでなっていた。

そんなある日。

いつものように12時まで仕事に励み、ひと段落ついたところでその店に向かった。

店内は繁盛していて、相席待ちが出来るほどの混雑っぷり。

お世話にも清潔感があるとは言えないが、安くて美味しく店主も気さくな優良店なので人気っぷりにも頷ける。

いつものようにお気に入りのカツカレーを注文書して、店内の隅角に置かれたブラウン管テレビに映る「昼めし旅」を観ていた。

すると隣のテーブル席に中年の男1人女1人の2人組が後から着席。

しばらくして僕の注文したカツカレーが到着。

最初は特に気にすることなく、いつもの味に舌鼓を打っていたが、徐々にそのグループの声量の大きさが気になってきた。

特に男の方。一応テーブル席ということで若干は離れてはいるが、その内容は一語一句全てハッキリと聞き取れる。そして全然面白くない。

僕は必要以上に声がデカい奴は基本的に苦手だし、このご時世に飲食店で大きな声を出すのはどうなのか。

大好きなカツカレーを食べ進める中で、どんどんそいつの声の大きさが気になってきて途中から味もわからなくなっていく。

こう書くとどんだけ神経質なんだと思うかも知れないが、飲食店での会話の常識の範疇を超えるレベルで、例えるなら学校の教室で先生に向かって男子の悪行をチクるイキった女子生徒くらいの声量なのだ。

半分ほど味のしない本来美味しいはずのカツカレーを食べたところで、僕の怒りは頂点に達し、そいつの目を見てハッキリと

「すいません、もうちょっと声のボリューム落としてもらえます?内容全部聞こえてくるんで」

と言って注意した。

するとその男はその場で平謝りし、対面に座る女も気まずそうな表情になり、店内は一瞬静かになった。

僕がビックリしたのは、その後も2人組はお通夜会場にでもいるんか?という小さな声ですぐに会話を始めたことだ。

確かにボリュームを下げてくれとは言ったけど、赤の他人に面と向かって注意されて謝った挙げ句に、すぐ会話を続けるなんて僕なら出来ない。ランチタイムという至福の時間をただただ残念な気持ちで過ごすに他ならない。

なんて図太い奴らなんだと思いながら、ものすごい小声で喋り続ける奴らを横目で見ていたら段々面白くなってきて、結局味なんてよくわからないまま変な気分で会計を済ませて店を後にした。

そして翌日。

たまたま同じ場所での仕事が重なったので、2日連続で同じ店に向かった。

たまたま同じ席に通され、同じように昼めし旅を観ながら食事をしていたら、なんと隣のテーブルに昨日僕が注意した男が今度はおばちゃん2人を引き連れたまたまやってきた。

昨日の今日で流石に覚えているだろうし、同じく常連客ならお気に入りの店で問題は起こしたくないだろう。

そんな僕の心境を知ってか知らずか、着席するや否や、昨日注意する前と全く同じような声量でべちゃくちゃと喋り始めるその男。

文字通りまさに耳を疑う事態に僕の脳はちょっとしたパニックを起こした。

前日に自分を注意してきた奴が先に隣に座っていて、それだけでも気まずいというのに、何事もなかったかのように大声を出せる神経か信じられなかった。

ここで再び注意をするとしたら、僕はいったいどういう切り口で話をすればいいのか。

万が一、昨日のことを覚えてないみたいな顔をされたらどうしよう。

男は記憶がなくなるニワトリ人間なのか?むしろ僕の耳が狂っているのか?え、タイムリープもの?

そんなアホなことを考えていたら食べていたはずカツカレーは綺麗サッパリなくなっていて、半ば放心状態で店から出ていた。

声がデカい奴はバカが多い。そう確信した日の話。

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